所長コラム「東レ、知財高裁に控訴」

東レ、知財高裁に控訴 かゆみ改善薬の特許侵害として
(2021年6月17日 :日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC19D1W0Z10C21A5000000/

東レがかゆみ改善薬「レミッチ」の特許侵害訴訟で、知財高裁に控訴したことが分かった。
同社によると、薬の有効成分の使い道に関する特許について知財高裁で争われるのは初めて。
後発薬メーカーの沢井製薬と扶桑薬品工業を東京地裁に訴えたが、3月30日に請求を棄却された。

(コメント)
先週発表された記事ですが、元は2018年12月に東レが東京地裁へ特許権侵害訴訟を提起したことから始まった事件です。
「https://cs2.toray.co.jp/news/toray/newsrrs01.nsf/0/E47369C1B8DF352649258363001C3E8A?open」

一方、被告側は、特許が無効であることを主張して特許無効審判、特許権の延長登録が無効であることを主張して延長登録無効審判を請求していました。
これらの審判請求は、合計で5件に及び、そのうちの一つが2021年3月25日に知財高裁で請求棄却となりました(知財高裁令和2年(行ケ)第10041号)。

この「知財高裁令和2年(行ケ)第10041号は、東レの「止痒剤」に関する特許(第3531170号)に対して沢井製薬が請求した無効審判(無効2019-800038号)について出された「棄却審決の審決取消訴訟」です。
争点は、進歩性の認定判断の誤りの有無ですが、知財高裁は、進歩性の認定判断には誤りはなく、本件発明を想到することが容易であったということはできないというべきであり,取消事由1は理由がない、と判断しました。

特許権侵害訴訟の審理では、被告製品が特許権の技術的範囲に属するかどうかを議論する充足論と、特許権が有効であるかどうかを議論する無効論とに分けられます。
「知財高裁令和2年(行ケ)第10041号」では、被告が主張した特許無効が棄却されたため、特許権侵害訴訟では、特許は有効であることを前提に議論されることとなりますが、冒頭の記事では、特許権侵害の主張が棄却されたことから、「特許権は有効、しかし被告製品は技術的範囲に属さない」と判断され、東レ側が控訴したと考えられます。

※ジェネリック医薬
これらの一連の事件は、いわゆる「ジェネリック医薬」に関し、先発メーカー(東レ)と後発メーカー(沢井)との間で起きている特許紛争です。
一般的に言って、患者にとっては、有効で安価なジェネリック医薬はありがたいものではありますが、先発メーカーの社会的貢献・投資の回収・将来の研究開発費の確保という観点も尊重すべきであります。
裁判所の判断が注目されます。

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