【意匠】新規性喪失の例外規定に関する手続要件の緩和(令和5年法律改正)
2024年1月1日に施行される令和5年意匠法改正では、デザイン開発における現状を踏まえ、意匠法第4条に基づく新規性喪失の例外規定の適用手続が見直されました。本改正は、特に中小企業やスタートアップ企業にとって負担となっていた手続要件を緩和し、意匠登録出願の障壁を軽減することを目的としています。
背景と必要性
意匠法第3条第1項では、新規性を有する意匠のみが登録可能とされており、意匠が出願前に公開された場合、原則として登録できません。ただし、製品の展示や広告活動など社会的な要請により意匠が公開された場合には、新規性喪失例外規定(意匠法第4条)が適用されます。
しかし、この規定に基づく適用手続には、以下のような課題がありました。
- 証明書提出の煩雑さ:公開日や公開場所を網羅する例外適用証明書の作成が負担。
- 類似意匠への対応不足:複数の類似意匠が公開された場合、それぞれについて証明書を提出する必要がある。
- 公開態様の多様化:SNSやティーザー広告などの新たな公開手段の増加により、例外適用証明書が必要となるケースが拡大。
改正の内容
今回の改正では、以下の2点が主要な変更点となっています。
1. 証明書提出要件の緩和
従来は、公開された全ての意匠について例外適用証明書を提出する必要がありました。しかし、改正後は、自己の行為により公開された意匠のうち、最も早い公開日の行為に基づく1つの証明書を提出すれば足りるとされました(意匠法第4条第3項改正)。
この変更により、複数の類似意匠が同時期に公開された場合でも、最も早い公開日について1つの証明書を提出すれば他の類似意匠にも例外規定が適用されます。
2. 国際意匠登録出願への対応
国際出願における新規性喪失例外規定(意匠法第60条の7)についても、国内出願と同様の要件緩和が適用されることが明記されました。これにより、国際公表後30日以内に証明書を提出する際の負担も軽減されます。
具体的な条文変更
以下は改正後の主な条文です。
意匠法第4条第3項
「自己の行為により公開された同一又は類似する意匠については、最も早い公開日に基づく1つの証明書を提出すれば足りる。」
意匠法第60条の7
「国際意匠登録出願においても、国内出願と同様に、最も早い公開日の行為による1つの証明書で足りる。」
施行期日および経過措置
改正法は2024年1月1日に施行され、それ以前の出願には従前の規定が適用されます(改正法附則第4条)。
改正の意義
今回の改正は、中小企業やスタートアップ企業が抱える負担を軽減し、意匠権取得のハードルを下げることで、産業の発展を促進するものです。新しい手続要件の導入により、より柔軟で効率的な意匠登録制度が実現されることが期待されます。この改正により、企業は新たなデザインを活用した製品開発やマーケティング活動を積極的に行えるようになります。これを機に、自社の意匠戦略を再考し、知的財産の活用をさらに進めてみてはいかがでしょうか。
参考資料
特許庁「令和5年法律改正(令和5年法律第51号)解説書」
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/2023/2023-51kaisetsu.html