【知財全般】国際郵便引受停止等に伴う公示送達の見直し(令和5年法律改正)

公示送達とは何か

公示送達とは、相手に送達すべき文書を直接届けることができない場合に、公的な場所にその内容を掲示し、相手に通知があったとみなす手続きです。この制度は民事訴訟法第110条第1項に基づき、以下の要件で実施されます。

  1. 当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
  2. 民事訴訟法第107条第1項により送達をすることができない場合
  3. 外国での送達が民事訴訟法第108条の規定によることができない、またはそれによっても送達できないと認められる場合
  4. 民事訴訟法第108条に基づき外国の管轄官庁に嘱託後6か月経過しても、送達を証明する書類が届かない場合

このように、公示送達は通常の送達ができない場合に適用される「最後の手段」としての役割を果たしています。

特許法においても、公示送達は同様の趣旨で定められています。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により国際郵便の引受停止が発生したことで、従来の送達手段が機能せず、制度上の課題が顕在化しました。


背景と改正の必要性

従来の特許法では、海外居住者(在外者)に送達する場合、特許管理人を通じて行うか、航空扱いの書留郵便を使用して送達するとされていました(特許法第192条)。しかし、国際郵便が停止した場合、この送達方法が使えなくなり、公示送達の要件にも該当しないため、法的手続きが進まないという問題が生じました。


改正の概要

今回の特許法改正では、第191条に以下の変更が加えられました。

1. 公示送達の要件追加

国際紛争や感染症などの影響で国際郵便が6か月以上停止し、書類発送が困難な場合、公示送達を可能とする新たな要件が追加されました。
「6か月」という期間は、民事訴訟法第110条第1項第4号の規定を参考に設定されています。

2. 公示送達の方法追加

従来の官報および特許公報への掲載に加え、特許庁内に設置されたディスプレイに送達内容を表示する方法が導入されました。これにより、情報をより簡便に確認できる仕組みが整備されました。


改正条文のポイント

改正後の特許法第191条第1項では、公示送達が可能なケースとして次の3つが挙げられています。

  1. 送達を受けるべき者の住所が不明な場合
  2. 民事訴訟法第107条第1項に基づき送達が不可能な場合
  3. 国際郵便が6か月以上停止し、書類の発送が困難な場合

さらに、第2項では、公示送達の実施方法として以下が規定されました。

  • 官報および特許公報への掲載
  • 特許庁の掲示場への掲示
  • 特許庁内ディスプレイへの表示

施行日と経過措置

改正法は令和5年7月3日から施行されました。施行日以後の送達については新たな規定が適用され、施行日前の送達については従来の規定が適用されます。改正法附則第3条では、施行日前に行われた公示送達に関しては「従前の例による」としています。


まとめ

今回の特許法改正は、国際的な郵便事情の変化に柔軟に対応するための重要な施策です。感染症や国際紛争といった予測困難な事態においても、特許関連の手続きが停滞しないよう、公示送達の要件と方法が見直されました。この改正により、特許出願者や関係者が不利益を被ることなく、法的な手続きを進められることが期待されています。


参考資料

特許庁「令和5年法律改正(令和5年法律第51号)解説書」
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/2023/2023-51kaisetsu.html

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