【知財全般】裁定における営業秘密を含む書類の閲覧制限(令和5年法律改正)

裁定制度と背景

特許法や意匠法には、特許発明の実施や登録意匠の利用を調整するための「裁定制度」が存在します。この制度は、特許権者や意匠権者の同意が得られない場合に、第三者が一定の条件下で特許発明や登録意匠を利用できるようにするものです。

裁定が認められる具体的な態様は以下の3つです:

  1. 特許発明等が一定期間(原則3年以上)不実施の場合
    (特許法第83条および実用新案法第21条)
  2. 特許発明等が他人の特許発明、登録実用新案、登録意匠を利用する、または特許権等が他人の意匠権等と抵触する場合
    (特許法第92条、実用新案法第22条および意匠法第33条)
  3. 公共の利益のために特に必要な場合
    (特許法第93条および実用新案法第23条)

裁定手続では、特許発明が実施されていないことや、登録意匠の利用が必要であることを証明するために、事業計画や実施状況を示す書類が提出されます。その際、提出書類には企業の営業秘密が含まれる場合がありました。しかし、これらの書類が公開されることで、裁定請求者や特許権者が情報提供を控えるケースが発生し、結果的に裁定が適切に進まない事態が課題として浮上していました。

法改正の概要

令和5年の法改正では、この課題を解消するために、裁定に関連する書類のうち営業秘密が含まれるものについて、閲覧制限を導入しました。

改正内容のポイント

  1. 閲覧制限の適用範囲の明確化
    特許法第186条および意匠法第63条に基づき、裁定手続や関連する審判において提出された書類のうち、営業秘密が記載されたものについて、閲覧を制限できる規定が追加されました。
  2. 申出と認定のプロセス
    閲覧制限を求める場合、当事者や通常実施権者などが営業秘密が含まれている旨を特許庁に申出し、特許庁長官がその必要性を認めることで制限が適用されます。
  3. 他法令との整合性確保
    改正内容は特許法だけでなく、意匠法や実用新案法にも適用され、裁定に関連する全ての分野で営業秘密の保護が図られるように整備されました。

法改正の意義

この改正により、営業秘密の漏えいを懸念せずに必要な書類を提出できる環境が整いました。これにより、裁定手続がより公正かつ効率的に進められることが期待されます。

企業にとっても、重要な技術情報や事業情報が適切に保護されることで、裁定制度を利用する際の心理的ハードルが低下しました。この結果、特許や意匠に関する紛争解決の選択肢として裁定制度の利用価値がさらに高まると考えられます。

施行日と今後の展望

改正法は令和5年7月3日に施行されました。経過措置は設けられていないため、施行日以降に行われる裁定手続や関連審判では新たな規定が即座に適用されています。

この改正は、特許権者や意匠権者だけでなく、裁定を請求する第三者にとってもメリットの大きいものであり、今後、裁定手続における情報保護の枠組みがさらに充実していくことが期待されます。


参考資料

特許庁「令和5年法律改正(令和5年法律第51号)解説書」
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/2023/2023-51kaisetsu.html

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