【知財全般】発信主義と到達主義
特許制度では、出願書類の提出が特許庁に受理されるタイミングに関するルールが、出願人の権利保護や手続の円滑性に大きく影響を与えます。これに関連する主要な概念として、「発信主義」と「到達主義」があります。この記事では、日本の特許法第19条を中心に、これらの制度についてわかりやすく解説し、具体的な適用例を交えて説明します。また、マドリッド協定議定書(マドプロ)による出願についても触れます。
発信主義とは?
発信主義とは、「願書又はこの法律若しくはこの法律に基づく命令の規定により特許庁に提出する書類その他の物件であつてその提出の期間が定められているもの」を、「特許出願書類や関連書類を特許庁に向けて発信(送信)した時点」をもって、「それらが特許庁に到達した」として認める考え方です(特許法第19条)。郵便日付印で示される郵便局に差し出した日やオンラインでの送信完了時点が基準になります。これは、書類の到達が遅延した場合でも出願人の権利を保護する仕組みです。
発信主義が適用される具体例
- 特許出願書類
願書、明細書、図面、要約書など、特許出願時に必要な書類には発信主義が適用されます。郵便で差し出した日が特許庁への提出日として認められるため、特に出願日を確保するうえで重要です。 - 出願審査請求書
特許の実体審査を請求する際の審査請求書も発信主義が適用されます。出願日から3年以内に郵便で差し出せば、郵便事情によって特許庁への到着が遅延しても、郵便局へ出願審査請求書を差し出した日が提出日として認められるため、期限を守るための重要な仕組みです。 - 拒絶理由通知に対する意見書および手続補正書
拒絶理由通知への応答として提出する意見書や補正書にも発信主義が適用されます。特許庁が指定する期間内に郵便で差し出せば、到着の遅延にかかわらず有効な手続とみなされます。
到達主義とは?
到達主義とは、特許庁が出願書類や関連書類を実際に受理した時点をもって提出日とする考え方です。この制度は、特許庁が書類を確認して手続を進める上での正確性を重視しています。
到達主義が適用される具体例
- 国際出願(PCT出願)
国際出願(PCT出願)は、出願書類が受理官庁に到達した時点で出願日が確定します。これは、PCT規則第11条および国際出願法(施行規則)第5条に基づいており、書類の形式要件が満たされていることが条件です。 - 住所変更届
出願人や特許権者の住所変更を特許庁に届け出る場合、住所変更届が特許庁に到達して初めて手続が完了します。これは法定期間の定めがないため、到達主義が適用されます。 - 移転登録申請書および名義変更届
特許権の譲渡や相続による名義変更手続では、特許庁が申請書や届出書を受理して初めて移転が記録されます。これも到達主義の対象です。 - 審決取消訴訟の訴状(特許法第178条)
審決取消訴訟の訴状に関しても到達主義が適用されます。
マドリッド協定議定書(マドプロ)における適用
マドプロによる国際出願では、以下のように発信主義と到達主義が適用される場面が異なります。
- 国際登録出願(到達主義)
国際登録出願の受理日(≒国際登録日)は、本国官庁である日本国特許庁が実際に受理した日となります(商標法第68条の3第2項)。このため、到達主義が適用されます。 - 指定国としての手続(発信主義)
指定国である日本国特許庁への手続では、発信主義が適用されます。郵便局等に差し出した日時に特許庁に到達したものとみなされるため、出願人は手続期間内に送信を完了させれば、到着が遅延しても不利益を被ることはありません(商標法第77条第2項で準用する特許法第19条)。
発信主義と到達主義の比較
以下に、発信主義と到達主義の違いを整理します。
比較項目 | 発信主義 | 到達主義 |
---|---|---|
提出日 | 書類を送信した日 | 書類が到達した日 |
主な適用手続 | 特許出願書類、審査請求書、補正書 | 国際出願、移転登録申請、住所変更届 |
出願人への影響 | 配達遅延の影響を受けない | 配達遅延が不利益になる可能性 |
行政機関の業務の正確性 | 出願人に有利 | 行政機関の確認が必要 |
まとめ
日本の特許制度や商標制度では、法定期間が設定されている手続に発信主義が適用されることが多く、出願人の権利を保護する仕組みが整っています。一方、マドプロによる国際登録出願や住所変更届など、特許庁が書類の到達を確認して次の手続に進む必要がある場合には到達主義が適用されます。
特に国際手続を行う場合は、マドプロのルールを正確に理解し、手続を円滑に進めるために発信主義と到達主義を使い分けることが重要です。