日本以外の国で特許権を取得するために行なう出願のことです。
現時点において、世界的に統一された特許制度というものは存在しませんので、仮に、日本で特許を取得できたとしても、他国でも特許を取得しなければ、その国で保護を受けることはできません(属地主義)。
新規な技術に基づいた製品を外国へ輸出したり、外国で新規な技術に基づいた製品の「現地生産・現地販売」を行なったりする場合、その国で特許権を取得しておかないと、その技術は守れないのです。
ご参考までに、1か国当たりの出願費用は、特許庁へ納付する費用、現地代理人費用、翻訳費用、国内代理人費用を含めて、約100万円です。
また、どの国へ出願するかについては、ビジネスプランにもよりますが、いわゆる「輸出メーカー」は、取引量の多い米国、欧州、中国へ出願を行なうケースが多いです。

条約の立て付け
特許に関し、最も基本的な条約が「パリ条約」です。パリ条約は、各同盟国がそれぞれ有する特許制度の存在を前提としつつ、特許制度の国際的利用を促進するための基本原則を定めています。
これにより、各国特許制度の調整が図られています。パリ条約には、
 ①内外人平等の原則   ②優先権制度   ③各国特許独立の原則 
という三大原則があります。

 ①内外人平等の原則 とは、同盟国の国民が、外国で特許権を取得しようとする際に、その国の国民に課される条件および手続に従う限り、その国の国民と同一の保護を受けることができるという原則です(パリ条約第2条)。
パリ条約が成立する前は、外国人に対して特許を付与しなかったり、付与するにしても、自国民とは待遇上の差別をしたりする国がありました。これでは貿易上も経済上も、多大な不利・不便をきたすばかりでなく、発明の保護と利用を妨げてしまいます。パリ条約はこのような事態を是正すべく、内外人平等の原則を定めました。

 ②優先権制度 とは、同盟国において、正規の国内出願をした出願人は、その出願日から1年以内に他国へ後の出願をしたときは、その後の出願は、最初の出願の日にされたものとみなされるという優先権の利益を認める制度です(パリ条約第4条)。
これは外国に出願する場合には極めて便利な制度です。もし、優先権制度がないとすると、各国の特許法による保護を受けるためには、1日も早く出願をする必要がありますが、出願書類の作成、その国の言語への翻訳、外国代理人への依頼などのために相当の期間を要し、出願が遅れがちになってしまい、先願主義の下では不利益が大きくなってしまいます。
この優先権制度を利用することによって、最初の出願日から1年以内であれば、後の出願日は、最初の出願の日に遡ってその国の審査を受けることができるようになります。外国への出願のほとんどは、この優先権制度を利用して行われています。

 ③各国特許独立の原則 とは、各国で取得した特許は、それぞれ独立であり、他国における特許の運命とは無関係に発生し、存続し、消滅することを示す原則です(パリ条約第4条の2)。
属地主義から導かれる原則ですが、パリ条約が統一法ではなく調整法であることを示すものとなっています。
PCT(Patent Cooperation Treaty)とは
特許協力条約のことで、パリ条約19条の特別取極として締結されたものです。
PCTは、一つの出願で多数国に移行可能とし、各国での手続開始前に先行技術調査を実施し、方式の統一により、多数国出願と各国別審査に要する労力重複の軽減と、開発途上国援助を図ることを主な目的としています。
 PCTが締結される以前は、例えば日本国民が外国で特許を取得するためには、日本の特許庁に国内出願をし、その出願日から1年以内にパリ条約の優先権を主張して、各国の特許庁に特許出願をする必要がありました(パリ条約ルート)。
しかし、多数の国で、1年以内に各国別の言語、方式等で特許出願を行なうことは、容易なことではありませんでした。
そこで、特許協力条約(PCT)が締結され、その加盟国の国民等が、受理官庁(例えば、日本国特許庁)に国際出願をすることによって、他の複数の国で発明の保護を求めることが可能となりました(PCTルート)。
PCTルート


(1)メリット
 ①日本語で、日本の特許庁に国際出願をすることができ、1件の国際出願をすると多数国へ同時に出願したのと同じ効果が得られます。
 ②優先日から各国へ移行するまでに30ヶ月の期間があるため、特許取得の必要性の検討、特許を取得すべき国の選定、明細書の翻訳などの準備を余裕を持って行なうことができます。
 ③国際出願から約3ヶ月で、国際調査報告・国際調査見解書により、発明の特許性を判断することができます。
 ④国際予備審査を利用することで、国際段階で補正し、補正後の内容で再度特許性の審査を受けることができます。
(2)デメリット
 移行国が少ない場合は、翻訳する言語も少なくなるため、期間のメリットが少なくなります。

パリ条約ルート


(1)メリット
 ①出願国数が少ない場合は、総コストが抑えられる場合があります。
 ②基礎出願から権利取得までの期間が短くなる場合があります。
(2)デメリット
 優先日から1年以内に、出願国の言語への翻訳、国ごとに規定された形式に合わせた書類の作成をしなければならず、時間に追われ、手間がかかることが多くなります。

外国出願の補助制度について
「平成30年度中小企業知的財産活動支援事業費補助金(中小企業等外国出願支援事業)」によれば、外国出願に要する費用の半額が補助されます。
経済のグローバル化に伴い、中小企業においても海外進出が進んでおりますが 、知的財産権は国ごとに独立しているため、発明について日本で特許を取得し、又は製品の名称について商標を登録しても外国では権利として成立せず、進出先においても特許権や商標権等は国ごとに取得が必要です。
進出先での特許権や商標権の取得は、企業の独自の技術力やブランドの裏付けとなり海外での事業展開を進めることに有益であるとともに、模倣被害への対策に有効で、商標等を他社に先取りされ自社ブランドが使用できなくなるリスクを回避できます。
しかし、外国出願費用をはじめとする海外での知的財産活動費は高額であり、資力に乏しい中小企業にとっては大きな負担となっています。
特許庁では、中小企業の戦略的な外国出願を促進するため、外国への事業展開等を計画している中小企業等に対して、外国出願にかかる費用の半額を助成しています。 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)と各都道府県等中小企業支援センター等が窓口となり、全国の中小企業の皆様が支援を受けることができます。
地域団体商標の外国出願については商工会議所、商工会、NPO法人等も応募できます。また、意匠においては、「ハーグ協定に基づく意匠の国際出願」も支援対象です。
詳細は、こちらのページをご覧下さい。