経営者のための知財戦略(28)「測定機器メーカーの標準化戦略」
経営者のための知財戦略(28)
「測定機器メーカーの標準化戦略」
メーカーに限らず企業にとって測定は必要不可欠です。例えば、製品開発の場面では、設計通りに製品の仕様や性能が達成されたかを測定する必要がありますし、量産化された製品の検査工程では製品の仕様や性能を測定する必要があります。
このような測定を必要とするユーザー企業向けに測定機器を提供する測定機器メーカーがあります。測定機器メーカーにとって測定の信頼性を確保することは重要です。例えば、測定機器メーカーが、これまでの10倍の精度で測定できる画期的な測定方法に思いつき、それを実現する測定機器を開発できたとすればその測定機器は大ヒット間違いなしと思うかもしれません。しかし、その測定方法がいかに優れたものであったとしても、すんなりとそれがユーザーに受け入れられるとは限りません。新たな測定方法が保証されたものでないと開発品の客観的な評価はできませんし、検査が機能せず不具合のある製品が世の中に出回るようなことがあれば重大な信用問題にも発展しかねません。このように測定方法の保証は、測定機器メーカーにとって重要な課題ですが、何かこれを解決する手段はあるでしょうか?
「新市場創造型標準化制度について(経済産業省)」には、標準化の活用事例の類型Dとして、自社製品(測定機器等)のユーザーが困っている場合が挙げられています。測定方法がJIS化されれば、これほど強力な保証はありません。ただし、その場合には重要な知財権の開放やノウハウの開示につながらないように注意する必要があります。類型Dの一例としては、取引先が求めている性能等の評価方法を設定し、研究開発成果をPRしたいというニーズに対応した株式会社アクロエッジの例が挙げられています。
参照:「新市場創造型標準化制度について(経済産業省)」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/shinshijo/index.html
株式会社アクロエッジは、精密部品等における接着剤の硬化状況を連続的に測定する装置を開発した企業です。部品の接着精度や接着剤の開発環境向上のため、硬化時の挙動の連続的な分析に関する評価環境を整えたいという顧客の要望に応えるために上記の装置を開発しました。株式会社アクロエッジは、この測定装置を受け入れてもらうために、接着剤の硬化状況を連続的に測定する方法の規格を提案し、それをJIS化、さらにはISO化しました。その結果、精密機器メーカー等や自動車部品メーカー等との取引を拡大させることに成功し、JIS化前後で製品売上が2倍、受託測定が14倍に増加しています。測定機器メーカーはこのような例も参照し製品やサービスを普及させる戦略を構築されるとよいでしょう(白川洋一)。