経営者のための知財戦略(27)「新たなコンセプトを受け入れてもらうには?」
経営者のための知財戦略(27)
「新たなコンセプトを受け入れてもらうには?」
新製品・新サービスの中には、これまでの業界の常識を変える新たなコンセプトを提案するものも存在します。そのような製品・サービスが市場に浸透すれば大きなインパクトがありますが、これまでの常識や慣習を変えるため受入側の抵抗も大きくなります。
新市場創造型標準化制度について(経済産業省)」には、JIS化の活用事例の類型Cとして、新しいコンセプトであるため受入側が評価できない場合が挙げられています。新しいコンセプトの製品やサービスには、評価基準がなく、これまで使ってきた評価基準が使えません。そうなると受入側も採用の判断を下せず困ります。その製品やサービスが良いものだと分かっていても提供者自らが独自に性能や品質を評価した結果だけで重要な判断を下せるでしょうか?
参照:「新市場創造型標準化制度について(経済産業省)」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/shinshijo/index.html
経済産業省のサイトには、類型Cの例として株式会社mil-kin(旧アクアシステム株式会社)の携帯形微生物観察器の例が紹介されています。従来、食品を取り扱う店舗や工場では、サンプルを採取して別室において調整及び培養の過程を行い顕微鏡で観察するという工程が必要でした。株式会社mil-kinの携帯形微生物観察器は、その場で細菌の有無を検査できるという画期的な製品です。顧客側のこれまでのオペレーションを変えることまで提案し、検査にかかる時間の短縮や作業の簡略化を大幅に進めるものです。しかし、店舗や工場にとっては、有効な製品だと分かっていても安全衛生に関わるオペレーションを変えるには思い切った決断が要ります。株式会社mil-kinは、製品の性能や品質の信頼を得るために、解像力や堅牢性の基準のJIS化を提案し、携帯形微生物観察器が受入側で評価しやすい環境を整えました。その結果、食品を取り扱う店舗や工場を顧客とする新たな市場が形成されました。近年では歯科医院などの新たな市場にも市場が拡大しています。
新たなコンセプトの製品やサービスを顧客に受け入れてもあるためにどうしようかという場面では、上記のように自ら客観的な評価基準を作り、標準化することが考えられます。JIS化に伴い、新製品の存在がニュースとして紹介されれば、そんな製品があったのかということで話題になり、新たな引き合いが舞い込むこともあるでしょう。有効な市場拡大の方策としてぜひご一考ください(白川洋一)。