経営者のための知財戦略(23)「営業・販路開拓への処方箋とその注意点」
経営者のための知財戦略(23)
「営業・販路開拓への処方箋とその注意点」
前回の記事で、自社技術のうち、他社に開放する領域と、自社で独占する領域を切り分け、それらを連動させることで利益を最大化する戦略としてオープン・クローズ戦略を紹介しました。このオープン・クローズ戦略のうち、「標準化」の戦略は自社技術を積極的に他社に使ってもらうものであり、オープン戦略に位置付けられます。NRI「中小企業経営に関するアンケート」(2021年3月)によれば、営業・販路開拓で悩む中小企業は多く、これは専門家の支援によっても十分に解決していません。技術を普及させる標準化はその処方箋として有効ではないでしょうか?
ただし、標準化は使い方次第で毒にも薬にもなります。重要な注意点は、自社技術のうち、他社との差別化に資する強みの領域は標準化しないということです。強みの領域を評価する評価基準は状況に応じて標準化してもよいのですが、強みの領域そのものは決して標準化してはいけません。
例えば、白熱電球が主流なときに自社を含む複数のメーカーがLED電球の標準化をしようしているとします。そして、自社のLED電球に特に人肌がきれいに見える独自の性能があるのなら、その性能が評価されるような評価基準も標準化するのは良いのですが、その性能を達成する仕様そのものまでを標準化してはいけません。それをしてしまうと自社の強みが失われてしまいます。
また、このような戦略の検討は早い段階で行うことが重要です。LED電球が標準化された後に、人肌がきれいに見える評価基準を規格に追加して自社にだけ有利な標準化をしようとしても他社から反対されてしまいます。自社に有利な評価基準を規格に入れるなら早い段階で行う必要があります。
一方で、その性能を他社に気づかれないように標準化しないという選択もありえます。LED電球が普及した後にその性能の重要性に気づいても他社は追いつけないようにするわけです。
要は、二の矢、三の矢が継げるように早い段階から準備しておくのが強かな戦略といえるでしょう。標準化を検討する場合には、ぜひ、標準化に詳しい専門家とともに早い段階から市場の展開を先読みし、戦略を練ってみてください(白川洋一)。