経営者のための知財戦略(19)「取引時に活用できるガイドライン」
経営者のための知財戦略(19)
「取引時に活用できるガイドライン」
スタートアップに限らず、他社との提携の場面では、ノウハウの流出や不利な契約の締結に注意する必要があります。例えば、開発ベンチャーのような企業であれば、独自の技術情報が自社の命運を握るのでノウハウの流出防止や事前の秘密保持契約の締結には当然気を配るでしょう。しかし、将来、提携先が自社技術を実施せずに利益の分配を受けられないという事態まで想定できているでしょうか?考えたくないかもしれませんが見込み通りにいかない場合もありえますので、冷静に手当てしておくべきです。
ただ、このような契約時の交渉は、通常は立場の弱い側にとって切り出しにくいものです。そのような場合の拠り所として、2021年に公開された中小企業庁の「知的財産取引に関するガイドライン」があります。公的機関が発行している中立なガイドラインとして紹介すれば話を切り出しやすくなります。
このガイドラインでは、1契約締結前(取 引交渉段階・工場見学等)、2試作品製造・共同開発等、3製造委託・製造販売・請負販売等、4特許出願・知的財産権の無償譲渡・無償実施許諾ということで取引の段階ごとに、あるべき姿、考え方や事例が分かり易くまとめられています。中小企業の経営者や知財担当者は、時間に余裕のあるときに見ておくと良いでしょう。
同じページには契約書のひな形もダウンロード可能に掲載されています。契約書のひな形をベースに、実態に合わせて条項を変える場合には、理由を示すというルールで運用すれば、両者にとって納得のいく契約書になるのではないでしょうか?
本来あるべき中立な契約の形がどんなものか分からずに契約してしまうといつの間にか自社に不利な契約を締結しているということになりかねません。後悔しないようにガイドラインを一読されることをお勧めします(白川洋一)。