大きな被害をもたらす技術流出!その対策は?①

2017.03.15
(1)情報漏洩の事案
近年、情報漏えいがニュースになることが増えました。図表1は、経産省の委託調査で報告された2007年~2014年の事案をまとめたものです(※1)。あらためてこれらの事案を眺めてみると、様々な形で情報漏洩が起こっていることに気づかされます。海外展開や事業提携を考える製造業者にとって、情報漏えいは悩ましい問題となりました。
国内における主な情報漏えいの事案(※1より引用)
2017年3月現在、多額の減損損失を埋めるために好調の半導体事業を売却するとも言われている東芝ですが、その半導体事業を代表する四日市工場で起こった事件が3年ほど前にニュースになりました。賠償請求が高額なこともあって、図表1の事案の中でも注目を集めた事件です。
2)東芝・サンディスクの技術流出事件 2014年3月、不正競争防止法違反(営業秘密開示)の容疑で東芝の共同開発先である米企業のサンディスクに所属する元技術者が逮捕されました。元技術者は四日市工場でNAND型フラッシュメモリに関する秘匿情報を持ち出し、転職先の韓国企業SKハイニックスに漏洩しました。
2007年当時、元技術者は、管理職級から一般技術者に降格され、給与などの待遇が悪くなったことに不満を漏らしており、研究データをUSBメモリに入れて持ち出した上、転職先でメール送信や発表をしていたと報道されています。また、「大金を手にしたので、残りの人生は遊んで暮らす」などと周囲に話していたようです。この情報漏えいの後、2008~2010年頃にSKハイニックスの技術が急速に向上しており(※2)、これが技術流出によるものとすれば実質の損害額は、莫大なものだったでしょう。東芝はSKハイニックスと容疑者に対し1090億円余りの賠償などを求める訴訟を起こし、SKハイニックスは約330億円で和解しました。
(3)ノウハウの管理 模倣されたくない技術は特許で守ることもできます。しかし、製造方法のように他社が実施していても特定し難く、製品から分かり難いものは特許になじみません。そのような情報は社内でノウハウとして秘匿されます。ノウハウの量は業界によって傾向があり、例えば図表2のデータによると、電子部品業界では特許の1/4程度です(※3)。

特許に対する技術ノウハウの比率(業種別)(※3より引用)
漏えいされた技術情報は、東芝社内で特許向けとは切り分けがなされ、ノウハウとして秘匿化されたものと考えられます。他社に漏れるとノウハウは価値を失うので、それだけは避けなければなりません。では、上記の事件では、どうすれば技術情報の流出を防止できたのでしょうか?
(4)秘密管理の実効性
報道によれば、事件当時、四日市工場に勤務していた東芝の技術者とサンディスクの技術者はいずれも、研究データにアクセスできる状態になっていたそうです。セオリー通り、技術情報を重要度や分野で分類し、従業員の所属や役職との対応関係でアクセス権を設定されていれば、元技術者が情報を持ち出すのは難しかったはずです。2007年当時、まだ四日市工場では管理が行き届いていなかったのでしょうか。
東芝側では「3段階のセキュリティレベルに分類し、相当な対策をとってきた」とも報道されており(※4)、細かな対策がすでに実行されていたのかもしれません。しかし、提携先のサンディスク側の組織まで管理が届いていなかった可能性があります。そうなるとせっかくのセキュリティレベルも機能しませんので、事前にお互いに秘密管理に実効性を持たせる運用を取り決め、例えば秘密管理が実行されているかを確認する組織を設けておくべきだったのかもしれません。
上記は一例ですが、各事案に応じて、対策は変わってきます。次に、分かりやすい技術流出対策の基本的な進め方や切り口を紹介します。
※1:営業秘密管理の実態に関する調査研究報告書、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、平成27年3月、P3
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/h26jittai.pdf
※2:【福田昭のセミコン業界最前線】東芝からSK Hynixに不正流出したNANDフラッシュ技術 – PC Watch
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/semicon/640888.html
※3:日本企業の技術ノウハウの保有状況と流出実態に関する質問票調査、DPRIETI Discussion Paper Series 16-J-014
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/16j014.pdf
※4:なぜ東芝の重要情報がライバルに漏れたのか、半導体で提携先の米サンディスク元社員が逮捕、東洋経済Online
(記事作成者:弁理士 白川 洋一)